影絵 ~光と影の芸術~

 

1924年に生まれ、ぼくは今年96才になる。
影絵の美しさにひかれて半世紀以上になるが、影絵といってもやはりもとは絵だと思う。
小さい頃は無口で絵ばかり描いていた。

慶應普通部に入り、仙波均平先生に出会い、中学から油絵やエッチングを始めていた。
普通部から予科へ進み、パレットクラブに入った。
そこでモダニズムにあこがれ、猪熊弦一郎先生や脇田和先生の所へ行くようになった。
今日までずっといちばん好きな画家だ。
猪熊さんのモダンな感覚や脇田さんの透明な抒情はぼくの影絵の基盤になっている。

もうひとつ、ぼくの影絵の軸になっているのが人形劇だ。
学生時代、児童文化研究会で人形劇に熱中した。
人形のかわいらしさや単純で素朴な動きは、人間の心をゆり動かす力をもっている。
人形劇は演劇の原点だと思う。
卒業間近に影絵劇を知り、火を燃やしその光がうつし出す影で表現する発想に驚いた。

戦時中は光がとざされた時代だったから、より一層、光に感動したのだろう。
卒業して映画会社(テアトル東京)の宣伝部に入り、戦後どっと入ってきたアメリカ映画から、映像の美しさをずいぶんと学んだ。
映像の原点は影絵かもしれない。
ヨーロッパで影絵は電気や幻灯や映画の発明の過渡期に流行している。
パリのカフェで、壁をくり抜いて、当時の前衛的な若い詩人や画家や音楽家が集って、盛んに影絵を演じたという。
影絵は映像のはしりだったのだ。

最後にぼくの影絵に欠かせないのは、動物好きなことだろう。
動物への愛は、ぼくの心の核になっている。
いままで猫や犬、スカンク、鳥、熱帯魚などずいぶん飼った。
飼ったというよりいっしょに暮らしたといったほうがいいかもしれない。
動物を愛する心から、自然を愛し、地球を愛する気持ちが生まれてくると思っている。
地球上にはいろんな生命がある。花も木もみんな生きている。

ぼくは影絵を作っているのではない。

動物を愛し、人形を愛し、地球上のあらゆる生き物の命の尊さを描いているつもりだ。
聖書にも「まず光あれ」とあるように、光はすべての根源であり、光の中に地球が生まれ、生命が生まれたといってもいいだろう。
また、光によって生み出された影も神秘的で幻想的な無限の表現力をもっている。

光と影で、自然の地球の美しさを尊さを描いているうちに、光と影は人生そのものだということに気がついた。
だから、ぼくは、自分の人生や生き様を描いているということになるのかもしれない。


それが、ぼくの影絵なのだ。